文字、動画、でっかいもの
本フォーラムでは、本や映画を障害者に提供するための媒体変換技術を紹介し、媒体変換が視覚障害者にもたらしているものは何なのかについて、議論してゆきます。
人が本を読むとき、そこに描かれた世界をどのように経験しているのでしょうか。身体的特徴が異なる人が同じ本を読むとき、同じ情報を受け取り、同じ経験をしているのでしょうか。
視覚障害者が紙に印刷された活字の本を読もうとするとき、点訳や音訳などの媒体変換をして読みます。さらに、イラストや、視覚に訴えるものとして作られたものは、言葉に書き起こすことになります。また、極端に大きい、または、小さいために触ることができないようなものが描かれているとき、それを言葉で説明するだけで理解できるのかという疑問も沸いてきます。視覚障害者は活字の本を読むことはできませんので、媒体変換は読書のための不可欠な手段であるとはいえ、変換された媒体が、元の媒体がもつ内容や感動をどのくらい伝えているかには、疑問が残ります。さらにいうなら、動画を媒体変換して視覚障害者に鑑賞させようという場合には、こうした疑問はもっと深いものになります。
媒体を変換することに伴って、元は活字やイラストとして視覚情報だったものが、朗読というかたちで聴覚情報に変わります。点字や模型にした場合は、触覚情報に変わります。このように、媒体変換は、情報を得る感覚器を越境することになります。異なる感覚器から情報を得る読書が、同じ経験をもたらすのかについては、疑問が残ります。
このように、視覚障害者に視覚提示物の情報を伝える手段と、視覚障害者がそれをどのように知覚し、理解するかについては、多くの疑問があります。本フォーラムでは、媒体変換のための技術を紹介し、媒体変換が視覚障害者にもたらしているものは何なのかについて、議論できればと思います。
本フォーラムでは、まず、視覚提示物の情報を視覚障害者に伝える手段を、登壇者からご紹介いただきます。まず、大島友子氏からは、マイクロソフト社が開発した支援技術のうち、Narrator、OfficeLens、SeeingAIなどの文字情報を読む技術を中心にご紹介いただきます。次に、渡辺哲也氏からは、建築物など、触ろうとしても大きすぎるなどのために全体像を触ることができないものを、3Dプリンタで出力して、触覚情報として伝える実験をご紹介いただきます。平塚千穂子氏からは、映画を音声ガイドという方法で言語化して伝える取り組みをご紹介いただきます。次に、これらの取り組みに対して、ユーザーとなる視覚障害者として、また、社会学の研究者として倉本智明氏からコメントをいただきます。そして、こうした媒体変換によって、視覚障害者は視覚提示物をどのように経験しているのかについて、登壇者と共に議論していきます。
本フォーラムにおいて紹介する技術と議論は、図書館における今後のより良い障害者サービスを検討する上で様々な示唆を与えてくれるでしょう。
◇◆◇当日のスライド資料はこちらから。資料は、渡辺氏-平塚氏-大島氏の順になっています。
https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/forum/VisuallyImpairedForum_181031.pdf